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あの夜から、樹生は一度も顔を見せない。
予想していたことだし、それを望んでいたはずなのに、すこしだけ寂しさを感じていた。
「……情がうつったのかな」
「え?」
「なんでもなーい」
不思議そうに首をかしげる美憂に笑って、あたしは店のドアを開ける。
薄暗いフロアでは、ボーイたちがあわただしく開店の準備をしていた。
「てか蘭の携帯、さっきからずっと光ってない?出なくていいの?」
「あー…電話じゃなくてメールだから。最近多いんだよね」
携帯の受信ボックスをスクロールしながら美憂に見せる。
不特定多数からの中傷や、卑猥なメールに、美憂は眉をひそめた。
「なにこれ?嫌がらせ?」
「最初は一人のアドレスから、『しね』とか『店辞めろ』とかだったんだけど、シカトしてたらいろんなとこから来るようになってさ。どっかの掲示板にあたしのアドレスさらされてるみたい」
「もしかして、依君の客じゃない?一時期、蘭が本カノじゃないかって、サイトで噂になってたし」
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