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簡単には引き下がらない樹生に、わずらわしさを感じる反面、興味を持ち始めていた。
「惚れさせてやるよ。そんな生意気な態度取れなくなるほどな」
「そしたら、あんな指輪なんかなくても、愛人にだってなんだってなってやるわ」
「……ムカつく女」
樹生がタバコをくわえ、火をつける。
あたしは手を伸ばし、それを自分のくちびるにはさんだ。
ゲーム開始。
まるで何かの合図のように、あたしたちは同時に煙を吐き出す。
樹生のタバコの味は、甘ったるい香りとは反対に、舌が痺れるような苦味があった。
あたしたちが吐き出した煙は、店のよどんだ空気の中でひとつに溶け合い、やがて消えて行った。
まるで、あたしたちの未来を暗示しているみたいに。
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