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濃い緑に並ぶ、綺麗な赤い楕円(だえん)の上部に蔕(へた)が付いているところをみると、どうやら、トマトのようだ。
その微妙なチョイスに、
「先生、なんでトマトなの?」
と尤(もっと)もらしい疑問が飛ぶと、
「俺がスキだから。」
なんて、何とも自分勝手な答えが返ってきた。
その色と蔕(へた)のお陰で、辛(かろ)うじてトマトだと判るそれが六つ並び終えると、アルヴィスはチョークを動かす手を止めた。
「じゃあ、今度は6つのトマトを3人で同じ数ずつ分けるには、1人いくつずつに分ければいいと思う?」
その問い掛けに、頭を抱え出す生徒たちを余所に、アルヴィスはふぅ、と一つ息を吐く。
子どもが嫌いなわけではないのだが、やっぱりこの元気の良さにはついていけない。
俺も年取ったな。
そんな親父臭いことを考えながらも、アルヴィスは何気なく、教室横に備えられている窓の方へと視線を移した。
「あ…。」
続いて、何の前触れもなく、アルヴィスの口から拍子抜けしたような声が漏れる。
アルヴィスは、己の視界へと入ってきた光景に、声を出さずにはいられなかった。
窓ガラス越しでは、よく見知った顔が笑みを浮かべ、小さく手を振っていた。
これは、世間一般ではごく普通に目にすることが出来る、よくある、なんてことはない光景なのかもしれない。
しかし、相手が相手なだけに、アルヴィスは己の目を疑った。
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