序章 遁逃す影

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  ゾッとするような静けさの中で響くのは、ぽちゃんぽちゃんという、水が滴っては落ちていく音に不規則な呼吸音。 背中を伝う汗の冷たさにぞくりとした。 新鮮とは言い難いが、ある程度取り込んだ酸素のおかげで、意識がはっきりとしてくる。 解らない…。 何もかもが解らなかった。 どうして、ああなってしまったのかも。 どうして今、このようなような状況に陥っているのかも。 唯一つ、解るのは、一刻も早くあそこから離れなければならなかったということ。 出来るだけ、遠くに行かなければ…。 再び歩を速めた。 足下(あしもと)での、ぴちゃぴちゃという水の跳ねる音と共にその飛沫が服に染みを作っていく。 頭の中では、繰り返し同じ映像が、スローモーションのように流れていて、目をきつく閉じても、耳を塞いでも、それらが消えることはない。 瞼の裏に張り付いて、脳裏に焼き付いて、繰り返し悪夢を見せた。 走っても走っても、それからは逃れられなくて、ぴったりとくっついて、離れない。 目が、チカチカする…。  
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