序章 遁逃す影

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  全てが紅く彩られていた。 いつも、新品同然に美しく磨かれた白い床も、座り心地のよいふかふかのソファーも、質の良い艶を放つ柱も、その長い歴史を物語る壁も…。 まるで、トマトを潰し尽くしたかのような。 真っ赤な染料をぶちまけたかのような。 そんな有り様で、横たわったそれらが嘗(かつ)て動き、生命活動を行っていたことなど考えられなかった。 紅。 あか。 アカ。 服に染み込んでいく紅。 恐怖に染まった瞳。 求めるかのように、伸ばされた腕。 最期の叫び。 全てが紅く染まっていき。 全てが紅く染め上げられていった。 赤い、朱い、紅い…海。 「うっ…げほっ、ごほっ…‥かはっ。」 急激な嘔吐感が襲い、胃の中身を全て吐き出す。 しかし、既に何回か繰り返された行為の為、異物は吐き出されず、黄色い液体が唾液と共に滴り落ちてきた。 口の中に酸っぱい味が広がる。  
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