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どうして…。
『お前は、生き残って幸せになるんだ。』
頬に冷たい手が触れ、真剣な瞳が、見つめてくる。
そんなの、嫌だよ…。
一人でなんて、嫌だ!!
「はぁ‥はぁ…。」
いつの間にか地上に出ていて、空を見上げれば、のっぺりとした月が全てを見下ろしていた。
その光は周りの星々をも呑み込み、夜闇を独り独占している。
眠りついた街に響くのは、パタパタという足音唯一つで。
路地に響くそれすらも夜の静寂が包み込んでいく。
まるで、独りきり、この世に取り残されてしまったようだ。
確かに、独りになってしまった。
そのことを、服にこびり付いた、赤黒い染みが淡々と告げている。
もう…‥。
ねぇ、誰か。
応えてよ。
違うって。
こんなことは、悪い夢だって否定してよ。
ねぇ…。
二度と触れることの出来ない想いを馳せながら、崩れ落ちる。
どうして…。
どうしてなんだよ…。
薄れゆく意識の中見たのは、黎明(れいめい)を告げる、白み始めた空をバックに、最期に見た、あの、優しい笑顔だった。
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