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カツカツカツ、そんな、黒板とチョークの擦れ合う乾いた音が妙に大きく響く。
恐らくそう聴こえるのは、他に大して音もないからだろう。
黒板と向かい合い、腕を動かす彼、アルヴィスは講師という仕事に、確かな充実感を感じていた。
彼が講師という仕事に就いたのは、今から四年前のこと。
教師ではなく講師という立場の為、比較的責任も軽く、彼なりに気に入っている。
なにより、授業のある日にしか出勤しなくていいという楽さが極度の面倒臭がりである彼の性にあっていた。
まさか、俺がガキに勉強を教えることになるとはな…。
アルヴィスは、心の中で苦笑する。
嘗(かつ)て教えられたことはあれど、まさか自分が教える立場に回るとは思いもしていなかったし、ましてや考えたことすらなかった。
今でも少し信じられない。
もしかしたらこれは夢で、眼を覚ましたら、違う景色が広がっているのでは…。
そんなことは有り得ないのに、未だにアルヴィスは時たま、そう疑ってしまうことがあるのだった。
「せんせい早く~。」
そんな間の抜けた声に、アルヴィスは現実へと引き戻される。
「ぼーっとしてどうしたの?」
「だいじょうぶ?」
心配そうに問い掛けてくる声まで混じり、アルヴィスは小さく微笑んだ。
「大丈夫大丈夫。
ちょっと考えごとしてただけだから。」
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