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だからアルトは何も聞かないことにした。
「それじゃあ、私はお風呂の支度してきますね」
コロリとミヅキは先程の表情から一変して笑って見せた。
きっと彼女なりの気遣いなのだろう。
「ああ、頼む」
アルトが頷くとミヅキは先程の悲しみを感じさせぬように気を配り微笑んだ。
「今日は、泊まってってください。なんなら、しばらく居てくれても結構です」
「そうかい。なら、お言葉に甘えるよ」
するとミヅキは嬉しそうに小さく微笑し、そそくさと出て行った。
しばしの静寂。
何かを考えながらアルトは
「気に入らないな」
と、つまらなそうな独り言が部屋の中に小さく響いた。
◆
外に出ると青々とした晴天だった。
暖かな日差しを受けながら彼女はそっと目を閉じた。
もしかしたらこれが最後の思い出かもしれない。
そう思うと胸が重苦しくなった。
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