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「だから、あなた達が俺の話しをしているのも聞こえていました」
雅仁の右手が、優雅に女の顎へ伸びて、ふと上を向かせれば。
周りから色めく黄色い声が飛ぶ。
…今、野郎の声も混ざっていたな。
渡来は頬をぽりぽり。
女の瞳はうるうる。
雅仁は尚更顔を寄せて、女に囁く。
「根暗なダサ眼鏡のシスコンオタク男とは、金持ちであっても付き合うなんて死ぬほど嫌なんですよね。安心して下さい、頼まれたって、あなた方の側には寄り付きませんから」
女の顔が凍り付いた。
雅仁の方は、笑みを深くしながら
「『あなた方』には、この課の他の二人も、総務部のあなたの同期に営業部の松永さんと川崎さんも入ります。喜んで下さいね」
笑顔はどこまでも涼やか。
「主任、資料室に行きましょう。俺も早く帰りたいので」
言うだけ言うと、背を向ける。しかし、声を掛けられた方は立ち竦んだまま。
「栗原主任」「あ、はい」
再び雅仁が呼べば、ようやく栗原が動き出す。
どっちが上司なんだか。
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