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「皆で資料探しに行くか」
チーム編成が決まり、渡来が声を掛ける。
「四人で行く必要もない。間違いデータ部分も探さなければいけないし、二人ずつに分かれた方が早いだろう」
雅仁が即座に却下。
「じゃあ、あたしと幸野さんで資料室に行きましょう!」
入社二年目の女子社員が、あからさまに雅仁の服を引っ張った。
引っ張られた雅仁の表情を見た渡来は、顔が引きつるのを抑え切れない。
うわー、本気で『うぜぇ』って顔じゃん。
もう一人のメンバー、栗原が、取りなすように提案する。
「四人でジャンケンとか、くじ引きとかで分かれましょう」
「えー、女同士になって、資料室行きの力仕事とか嫌ですよ、あたし。それに、データ分析なら渡来さんの方が得意分野でしょ? 栗原主任と間違い探しした方が効率的じゃないですか」
結構、まともな意見の為、栗原は反論出来なくなった。
「それじゃあ、行きましょう。ね、幸野さん」
媚びるような笑顔。
雅仁の眉間に深い深い二本線。
俺、知らねー。視線を逸らしてそっぽ向く、渡来。
本気で嫌がっているのが解らない女を、庇う気にもなれない。
雅仁が目を細めたのが、視界の端に見えた。
幸野ー、せめて、泣かすなよー。
渡来の願いは叶うのか。
「給湯室の扉も壁も、意外と薄いんですよね」
突如、オフィス内に響く、物柔らかな優しい声。
声の主は、今まで別人だったのか、と思わせるくらい、爽やかで魅力的な笑顔。
他のチームのメンバーすら、こちらを凝視している。
それほどの代物を目の前に向けられている女の顔は、完全にとろけきって。
唯一、雅仁の性格を理解している人物だけは、背中を伝う冷たい脂汗と戦っていた。
怖えぇ。すっげえ、怖えぇよー。
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