あるひと冬の物語

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それは、まだ編み始めたばかりのマフラーだった。 手編みなんて…誰かにあげるのかな? そう思っていると 「コロー! 帰るよー!」 おっこの声は 飼い主さんが迎えに来たみたいだ。 飼い主さんは迷わず、僕のいるベンチへと向かってくる。 「ニャー」 飼い主さんは僕が鳴いたのと同時に、僕の横にいる女の人に視線をずらした。 女の人も、飼い主さんに気づいたみたいだ。 作業をいったん止め、小さく会釈した。 「どうも。ほらコロ、帰るよ。」 「ニャー」 僕は飼い主さんのとこへと駆け寄った。 「お宅の猫ちゃんなんですか?」 女の人は飼い主さんに訪ねた。 「えっ? えぇ。コロっていうんですよ。」 「そうですか。可愛い猫ちゃんですね。私が編み物してるのを、じっと見つめてて…」 女の人は立ち上がり、僕の頭を撫でながら言った。 「そうなんですか? すみません。迷惑じゃありませんでした?」 飼い主さんが申し訳なさそうに返した。 「あっいえいえ。むしろ楽しかったですよ。私、この町に越してきてまだ間もないので…」 「そうなんですか? 私、杉山って言います。よろしくお願いします。」
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