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『登録完了しました。
続いてゲームの詳細に入らせて頂きます。
先程も申し上げましたがクリア条件は魔王の撃破。
ゲームオーバーはプレイヤーが死ぬことです。
続いて、本作品には現実の身体的障害は反映されませんので機能障害をもつプレイヤーの方も存分に楽しんで頂けます』
黒の空間の主は淡々と説明を連ねていく。俺は黙ってそれを頭に記憶し、構成し、分析しながら聞き入る。
『基本的な機能はそちらの』
声が言葉をきる。
すると今度は俺の右腕、肘から手首にかけての範囲が光に包まれる。
光は数字だった。凄まじい数字の羅列が螺旋状に渦巻き、やがて形をなした。
長さ10センチ幅5センチ厚さ2センチ程の長方体の機械が腕に取り付けられていた。
『【ウォッチ】で行います』
「【ウォッチ】?」
『それはゲーム内でのパラメーター、アイテム、パーティー関連etc……。
様々な情報管理をするうえでの必需品です』
俺は機械をよく観察する。
機械にはボタンがいくつかあり、おそらく押す事でさっきのようなウィンドーが開くのだろう。
『以上で全ての説明を終了します。何かご質問はありますか?』
一方的に話しを進められて面白くない俺は、声の主の事を知るうえでも質問を投げた。
「質問したいことだらけで困ってるんだが、何を聞けばいいと思う?」
『本作品は多人数参加型オンライン。足りない情報があるならば』
「他人に尋ねるのがルールか?」
声の主は無言で肯定する。
残念ながらこの声の主はユーモアのある話し合いに応じるつもりはないらしい。
『ご質問は?』
答える気はないくせに尋ねてくる辺り腹がたつ。
ほとんど誘導尋問というより答えの決まってるセリフまわしだ。
「ない」
『それでは次回より、レッド・クレセントでお待ちしております』
声を合図にするように俺の体が数字に分解されていく。
痛みもない。
恐怖がなかったのは呆気にとられていたからかもしれない。
『あぁ、そうでした』
体の半分以上が数字となった頃、自然を装いながら作られたシナリオのように声は告げた。
『ゲームオーバーとは現実世界での死亡を意味しますので、お気をつけて下さい』
どこまでも気に入らない声の主に、俺は口にはせずに心で丁寧かつ敬意を払ってぶちまけておいた。
クソ野郎、と。
気付けばパソコンの前に俺はいる。携帯の時刻はあと3秒で午後9時37分だ。
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