26人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ……」
あとに残ったのは後悔だった。
「ご…ごめん……」
乃愛は何も悪くない。
俺は乃愛に苛立ちをただぶつけていただけに過ぎない。同じ夢を見る事に苦悩し、気が狂い、原因も何もわからず、いつしか眠る事に恐れ、毎日を過ごす自分に心身共に疲れ果てていた。
思考も体力も気力も何もかも低下し、残ったのは誰かにぶつけたい自分勝手な苛立ち。
「……ごめん、乃愛」
「ううん、謝らなくていいよ。清司を苛立たせる事を言った僕が悪いんだから」
「違う。俺は…」
「ただ」
言葉を遮る。
「何があったのか、僕に話してくれないかな?」
「乃愛?」
「君は嫌な事や悩みを全て自分の中に溜め込む悪い癖があるからね…」
それは以前にも言った言葉。
乃愛は黙っている俺をみて小さく微笑んだ。
不思議だ。
乃愛の目は俺の全てを見透かしていそうで怖くなる。
両親よりも俺の事を知っているような、……とにかく不思議な感じがする。
だけど同時に救われる。俺は無意識に嫌な事を溜め込む癖がある。中々自らそれらを吐き出せない。
誰かに指摘されなきゃ気付かない時もあれば誰かに指摘されなきゃ吐き出せない時もある。
誰だって他人の愚痴を聞いていい気にはなれないだろ?
愚痴を吐き出す己は満足するかもしれないが聞かされる身は苦痛でしかない。
嫌な顔をされるのが嫌だから、俺は何も言わない。吐き出さず溜め込む。
最初のコメントを投稿しよう!