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思わず眠気が吹っ飛びそうな言葉だった。
母性本能を擽られる?俺が……?
呆然とする俺に乃愛が意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あれれ~、もしかして“好きだから”って言って欲しかった?」
「なっ!?」
顔が一瞬に火照る。
「ごめんね。大きく期待させちゃった所で外れて」
「別に期待していない」
「そう?」
「当たり前だ。男か女かわからない僕女に好き言われてもちっとも嬉しくないよ」
「うわー酷っ」
そう言いながらもショックを受けているわけでもなく、乃愛はいつもの表情のままだった。
まるで俺がそう言う事を予めから知っていたかのように。
「ま、とにかく寝なよ」
「……はぁ」
溜め息が漏れる。
何でも乃愛にはお見通しというわけか。
完全に完敗だ。
俺は大人しく眠るよう、瞼を綴じた。
正直まだ眠るのは怖い。
ガキみたいだが、怖いのだ。無意識に拳に力が入る。重なる乃愛の手が軽くきゅっと力が込められた。
冷たい彼女の手に俺はどこか安心する。
そういえば手が冷たい奴は心が温かいという迷信があるけど、もしかしたら当たりかもしれない。
だって…
綴じた瞼の裏でもわかる、乃愛がどんな表情をしているのか。
「おやすみ、清司」
温かい言葉に胸が熱くなるような錯覚が起こった。
そしてそれが何かもわからないまま俺の意識は自然と深い眠りに吸い込まれる。
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