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「あのさ乃愛、その“僕”って前々から気になってたんだけど」
「何?僕って言って悪いの」
「いや悪くはないけど、女なんだから私って言った方がいいと思うんだけどさ…」
「あー、それ差別かな。女が僕って言っちゃ駄目なのか。そう、なら僕が駄目なら“俺”て言うよ」
「それはもっと止めてくれ」
乃愛が笑う。
無意識に俺も笑みが零れた。
「大体僕苦手なんだよ。“私”っていうの」
「そうか?」
「そうなんだよ。なんか、こう…痒くなるんだ。鳥肌がたつというか…」
乃愛は腕をさすりながら俺に言った。
何故痒くなるのか鳥肌がたつのかは理解できないがなんとなく気持ちは伝わった。
「ま、私って言う乃愛は想像できないしな。うん、今まで通り僕乃愛の方がしっくりくるよ」
「だろ?僕は僕。僕と言わない僕なんて柚木乃愛じゃない」
胸を張って誇らしげに言う乃愛に苦笑いする。しかし次の突然の乃愛の問いに俺は現実に引き戻された。
「そういえば清司、何か元気ないけど…どうしたの?」
「え…」
「悩みあるならいいなよ。清司は悩みを全て自分に溜め込む悪い癖があるからね。幼なじみの僕にとっちゃいつ自滅するか心配だから今のうちに悩み、聞くよ」
女というものは恐ろしい生き物だ、と思った。
何も話していないのにほんの微かな相手の表情をみただけで敏感に気付く。
「別に悩みじゃないんだ」
今更ごまかす気もおきない。
「夢を、みたんだよ」
だから俺は今朝見た夢の出来事を乃愛に話す事にした…
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