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目を強く閉じ、部屋の隅を向いて座った男の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「こっちに来なさい、
私は君に少し話が有るんだ。」
この声は兵の声なんかじゃない、あの金持ちの声だ。
男は驚き飛び起き、
土牢の柵に手をかけた。
暗がりで見えにくいが、確かにあの金持ちだ。
「お前…なんでこんな所に居るんだ?」
「だから、お前に話が有ると言っているだろう。」
金持ちの声は一見冷静だが、僅かな怒気を孕んでいた。
この感じ、今までの人生で幾度となく体験してきた。
自分の嘘を見破った者、
自分の嘘で騙されたとやっと気付いた者の反応だ。
怒り、悲しみ、驚き、そして恨む。
人々の感情を操っているようで、男は強い快感を覚えた。
だが、何故か今は快感にならない。
初めての失敗を未だに心が受け付けていないからだろうか。
それとも…
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