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黒髪の少女は、フレイたちと目を合わせぬよう俯き、足早に通り過ぎようとする。
一人の視線が少女の腕章に泳ぐ。
「藍、か」
腕章は所属するクラスを示しており、藍色はBクラス。
紫色のAに属す生徒は少数だが、特別な才能があり、その技量は幼い頃から魔法を嗜んできた並の貴族を越える。
「頭下げろよ、平民」
「貴族様のお通りだぞ」
友人たちはふざけて囃し立てたが、少女は黙殺し、ただただ先を急ぐ。
「おい、聞いてるのか?!」
苛立った友人の一人が通り過ぎざまに低級の雷呪文を放つ。防御仕損なった少女はまともに魔法を受け、うずくまる。
友人たちから嘲笑が沸き起こる。
BはAに次ぐクラスではあるが、所詮凡人の集まり。
それなりの実力を有す、まして人数のいるフレイの友人たちの敵ではない。
「やればできるじゃないか。頭の下げ方、知らないのかと思った」
再び嘲笑が起こる。
「やり過ぎじゃ……」
フレイは窘めた。さすがに悪ふざけが過ぎる。
しかし友人は耳を貸さない。さらに呪文を放とうとする。
その時、
「あ、ヤバイ。ファイザー先生だ」
フレイの声に振り返れば、背後の曲がり角から赤髪の女教師が現れた。友人たちは、一目散に駆け出す。
彼らの背が見えなくなったのを確認し、フレイはほっと息をついた。
ファイザーの姿は、煙のように消えた。
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