ショートストーリーⅠ

2/11
前へ
/279ページ
次へ
虫の声どころか、風一つない静かな夜。 いや、今は夜なのだろうか――― 異世界に隠されたこの屋敷では、外の世界の時間などわからない。 ただ空がいつ見ても暗いので、気分的に夜のように感じる。 そんな不思議な空を布団の中から見上げ、その皺くちゃの目元にさらにしわを寄せた。 「おじい様……」 「―――鷹夜か。」 鷹夜はまるで老木のようなその姿に一瞬息をつめるが、すぐに何事もなかったように近付いてくる。 布団におさまった、小さな体躯(たいく)。 昔は艶やかな漆黒の髪だったのだが、今では見る影もない。 しかし弱々しいその姿からは想像できない、爛々(らんらん)と輝く瞳がカルマを捕らえていた。 「どうかした? お腹でもすいた……」 「なんだ、お前はおじいちゃんの話し相手にもなってくれないのか?」 鷹夜に向かってニヒルな笑みを見せようとするが、激しい咳がそれを邪魔する。 .
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2461人が本棚に入れています
本棚に追加