199X年 8月10日

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「ま、今はしょーがねーよ。ここはこのヤマを終えてから、やりゃあいいさ」  口調にこそいつもの軽さが残っていたが、彼の顔は真剣だった。  貧しい子ども時代を過ごしたフォールは、彼らと同じものを経験している。  本人は気付いていなかったが、アイリスは彼が拳を握り絞めているのを見た。 「……そうね。急ぎましょうか」 「おう」  その言葉を受けとったアイリスは、ジャケットのポケットをあさり始める。  すると思い出したように、フォールは声をあげた。 「アイリス待てって。……っと、どこやったかな」 「何よ?」  彼女がポケットから取り出したのは、髪を束ねる為の髪留めだった。  普段から手入れを怠らない自慢の金髪は、仕事の際には邪魔になってしまう時がある。  だから邪魔にならないようにと髪を束ねるのは、彼女の本気のしるしでもあった。  手に髪留めを持ったまま、彼女は不満気に相棒を睨む。 「ほらよ」 「っと」  やがて、フォールは内ポケットから小さな包みを出し、アイリスに投げて寄越した。  とっさだったが何とかキャッチした彼女は、首を傾げながら包みを開く。  するとその中には、茶色い輪ゴム状の髪留めが入っていた。
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