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「遼」
私が真央ちゃんや美冬さんと話している時、伊吹さんが坂下さんに話し掛けた。
私に聞こえないようにひっそりと小声で。
「……なんですか?」
坂下さんは分かっていたかのように振り向く。伊吹さんは無表情のまま机に寄りかかり、腕を組んだ。
「『かな』という女の事を調べてくれ」
「言うと思ってました」
坂下さんはやれやれといった様子で承認をした。
「やっぱ……調べるんだ」
「当たり前だ」
「かな、ねぇ……。
お前、女に興味ねぇとか言ってたくせして随分執着してるじゃねぇか」
鷹也さんが茶化すように嘲笑うと伊吹さんははぁとため息をはいて反論する。
「嬉しそうに真央に飛び付くんなら俺だって調べようなんて思わない。
……でも、さっきの華恋は懐かしむわけでもなく嬉しいわけでもなく怯えていただろうが」
それも尋常ではない程に。
そう言いながら伊吹さんは私を見た。
私はさっきの事など無かったかのように、三人で話に花を咲かせている。伊吹さんはそれを優しく目を細めながら見ていた。
「なんか……面倒くさそう……」
「そうでもありませんよ、案外楽しいものです」
「よくやるよなぁ……遼も」
坂下さんはニッコリと穏やかに笑った。
伊吹さんは笑う私を愛しそうに優しく眺めていた。
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