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「……き…さ…いよ…」
ぼんやりと声が聞こえる。
「起きなさいよ」
「ん……?」
完全に聞き取れた声で目を覚ます。
顔を上げた先には理彩がいた。
いつまで寝ていたんだろう?
ぼんやりする視界を頭を振ってはっきりさせる。
「二時間ずっと寝てるなんて……。やる気ある!?」
理彩は机にへばりついた俺を見下ろす。
カーテンが開かれた窓から見える空は春にはやや珍しい朱色に近い色に染まり遠くには沈みかけの太陽が見えた。
成る程、今はもう放課後で皆は帰った後らしい。
という事は理彩は俺をずっと待っていたという事になる。
「もしかして待っててくれたのか?」
確認の意味で聞いた。
「そうよ。気持ちよさそうに寝てるから幸那と帰る約束も断って待ってたの。でもいつまでたっても起きないから……」
後半部分が聞こえない文句をぶつぶつと垂れる理彩。
「ありがとな。じゃあ帰るか」
鞄を持って立ち上がった俺にぐいっと理彩は自分の鞄を突き付けて
「待っててあげたんだからこれ位は持ちなさい……!」
少し怒った様子でそう言った。
普段なら断る所だが今日はサービスだ。
「今日だけだからな」
俺は理彩の鞄をも空いた手で掴む。ずしりと伝わる重量。
予想外の負担に苦笑しながらも先を歩く彼女に向かって付いていく。
鮮やかで燃えているような夕焼けが目に焼き付いた。
俺の高校一年生初日。
人と付き合うのは得意とは言えないけれど、これから上手くやっていける気がした一日だった。
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