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それはあまりにも残酷で、悲しい夢だった。目覚めた後も尚、この胸を刔(えぐ)る程のー
サワサワ……
森の木々が風に揺れてざわめく。
空には真鍮(しんちゅう)の三日月。漆黒の闇夜を、その光が優しく照らしている。
深い深い森の中を、一人の青年が歩いていた。月明かりを頼りにし、奥へと歩を進める。
シャ……ン……シャ……ン……
手に持つ錫杖が、涼やかな音を響かせながら静寂の森を揺らした。
身に纏った装いからして、おそらくは僧侶なのだろう。しかし今時分、このような森の中に何の用があるというのか。
しばらく歩いた後、青年はふと立ち止まり、顔半分を覆っていた編笠に手をかけ夜空を見上げた。
空には月が煌々と輝いている。
まだ朝が来るには程遠い時刻。そう感じた青年は月から目を離し、近くに立つ楡(にれ)の根元へと歩み寄る。
被っていた笠を取り、そこに腰を下ろした。
それに寄り掛かると双眸を閉じ、息を吐く。
心地良い夜風が青年の髪を撫でて通り過ぎていく。
柔らかな風を肌で感じながら、ゆっくりと目を開いた。視線は焦点を定める事なく、遥か彼方を見据えている。
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