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(全てはあの夢がきっかけだった。あまりにも残酷で、そして……あまりにも悲しすぎるあの夢が……)
一つの夢。
それが、この青年法師の心に深く鮮明に残った。
残酷で悲しい夢。其は、ある人物の記憶。
忘れたくても忘れられぬ強い想いを秘めし者の、過去の残骸ー
大きな狼犬が森の中を疾走(はし)っていた。
その背に二人の人物を乗せて……
一人は髻(もとどり)を結い上げた長身の男。
そしてもう一人は、まだ少女と呼ぶに相応しい若い娘。
自分の前に乗る少女に何事かを言いながら、男は一瞬後ろを振り返る。
点々と松明の灯が、暗い森の中に浮かんでいた。
『追え!逃がすなっ!!』
叱咤する声が、夜の闇に響く。
松明を手に、大勢の男達が前を行く彼等を追っていた。
苛立ちと怒号の中、一人の男が走りながら己の背から何かを手に取った。
松明を地面に投げ捨て、前方に向けてそれを構える。そして、男の手から鋭い光が放たれた。直後ー
ドサッ!
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