一 夢人ヲ想フ

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狼犬の背から男が地面へと崩れ落ちた。 『父様っ!』 短い悲鳴と同時に、少女はその背から飛び降りた。そして、倒れた男の側へと駆け寄り身体を起こそうと触れた瞬間、その顔から血の気が引いた。 右肩に、深々と矢が刺さっていたのだ。 『く……っ』 男はくぐもった声を漏らしながらもその身を起こし、肩に刺さった矢を引き抜いた。 瞬間、せき止められていた血が噴き出し、衣を紅く染めていった。 少女は、青ざめた表情で見ていた。声を出すことも出来ぬまま、肩を震わせながら。と、 『そんな顔をするな、朱羅……私は、大丈夫だ……』 男は、掠れた声で僅かに笑んでみせた。 苦痛に顔を歪める姿を見、朱羅と呼ばれた少女の両目から涙がこぼれる。 そうこうしている間に、松明を持った男達が二人を取り囲む。 手にはそれぞれ剣や槍などを持ち、二人に突き付けている。一歩でも動こうものなら即座に貫くーそんな空気がひしひしと伝わってくる。 『いい加減悪あがきはやめろ!!』 『逃げられると思ったら大間違いだぞ!!』 口々に叫ぶ男達を、少女はキッと睨んだ。 その右目は、炎とも血の色とも言える鮮やかな緋色。 その瞳に気圧され、男達は一瞬にして黙り込んだ。と、その時ー
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