旅の終わり

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『私には分からない。 今君の心が何処に在るのか。 外は闇夜の雨。 テサロニキから発つバスの中を、空いた席に座ることもせず君は、微笑み立っている。 数少ない乗客達にとって此処は、そのささやかな雨をしのぐための小屋だったり、紛争にくたびれた、ほんのひと時の休息の場であったりする。 君は全てを見透かした様な目で、その愛で全てを包んでいる。 今君が誰を想い何を見ているのか。 君は優しい。この雨の様に。 そして全てに降りそそぐのだ。 君は私を愛していると言った。 それでも私は不安なのだ。 君のその愛が、いつか他の何かにとらわれて、私の前から消えて行ってしまうのではないかと。 君はふと振り向いて、私に微笑む。 その時だけ私は安心するのだ。 君の心が私の元へ戻って来てくれたことに。 今、君の心が何処に在るのか。 私には分からない。 私は今も必死で君の心を探している。 目を閉じて君を見つめ、耳を閉じて君の声をたどる。 取り残された私は、君を振り向かせるための言葉を探す。 君への愛を表せる言葉を探す。 そう私は今でも、君の心をとどめておくための言葉を、探し続けているのだ。』
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