旅の終わり

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 残された老人は、子どもにもらった手作りの花飾りを持ったまま、時間をかけて心を落ち着かせ、やっとのことで涙を抑えた。 しかしそれでも、彼は未だ悲しみの余韻の中にあった。 あの頃の夢から覚めて、今の私には何があるというのだ。 長い長い、このバスの夢から覚めても、留まり過ぎた、このバスを降りても。 今のわたしには、何があるというのだ。 「ここが終点です」 バスの車掌が老人に言った。 確かにバスは、子どもが降りてからも止まったままだった。 よく見るとそこは、彼の家のほとりに位置する、あの見慣れた、しかし懐かしいバス停だった。 「ここ、だったのか」 不思議な感覚だった。何年もこの土地で生きてきて、それでもあの子達の姿を、今まで見たこともなかった。 まるで夢の中の住人の様な。 いや、或いは、あの子達こそが唯一の現実だったのかもしれない。 或いは全て現実か、それとも夢か。 しかしどんなに考えようと、答えが出るはずもなかった。 「君と、話をしていたい」、「一緒にいてくれ」、「君を失うのが、怖い」・・・このバスの中で、私は誰にこの言葉を言っていたのだろう。 老人は自分の家の方に目をやり、そして立ち上がり、ゆっくりと、ゆっくりと、そのバスを、降りた。 時が再び、動き始めたような気がした。 彼は、長かった旅を終え、彼の戻るべき家に帰っていった。
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