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「ああ。ラグヴェル。戻って来てくれたのね。おかえりなさい」
家に帰ると、彼が愛する女性が、彼を迎える。
二人は優しく手をとり合い、微笑みあう。
彼女は嬉しそうに彼の手を引き、彼をテーブルに招き入れた。
「待っていてね。すぐにあなたの好きなコーヒーを用意するから」
「ありがとう」
彼は椅子に腰掛け、幸せそうな顔で彼をもてなす妻の姿を眺めていた。
「今回の旅はどうだったの?」
できたてのコーヒーを注ぎながら、彼女は夫に尋ねた。
「長い、長い、旅だったよ。
どれが現実で、どれが夢なのかも分からないくらい、長い間、彷徨っていた気がするよ。
いや、今私が君と居るこの時が、夢なのか、現実なのか、過去なのか未来なのかさえ、私にはまだ分からないのだ」
「また、近いうちに行ってしまうの?」
「いや、旅はもう終わりだ。これからは、君と共に居よう。
君と話がしていたい。一緒に居てほしい。
・・・そう、君を失うのが怖いんだ。
今回の旅で、それが分かった」
その言葉に彼女は、嬉しさのあまり目を潤ませながら打ち震え、そして彼に抱きついた。
「ありがとう。ありがとう!」
彼も彼女を強く抱きしめて、その深い愛情を示した。
お互いの心が、やっと出会えた様な気がした。
「いろいろと寂しい思いをさせてしまったね。私は帰って来たよ」
消えたものは、見つからないと思っていた。
だが、消えてしまったものなんて、初めから何も無かった。
ただ、それが出会えなかっただけ。
「ああ。やっと、戻って来てくれたのね、ラグヴェル。
今回の旅で、あなたが探していたものが見つかったの?」
彼女が言う。
彼はコートをぬいで、彼女に微笑んだ。
「言葉は見つからなかった。けれど君に似合う花を、見つけたよ」
<終>
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