旅の終わり

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「ぼうや、名は?」 サンドウィッチを右手に、老人は子どもに話しかけていた。 既に子どもは2切れの食事を済ませ、その大きな青い瞳で老人を見つめ続けていた。 「・・・どこで生まれた?両親は?」 子どもは何も答えない。 ただその十もいかないであろう小さな子どもの黄金色の髪が、灰色のこの町にはひときわ映えて見えた。 「ここからバスが出てる。この金があれば君もお家に帰れるだろう。さ、行くんだ。もうお帰り」 老人は、子どもの手に充分すぎるほどの小銭をのせ、その手を握りしめて言った。 「それじゃ、元気でな」 老人は、自分を見つめ続けるその子どもに背を向け、旅立つ列車の待つ駅に向かおうとした。 しかしその時、小銭をにぎっていた子どもの手が、老人の腕を引き止めた。 静かな空間の中で、地面に散らばり落ちるコインの音だけが響き渡っていた。 「怖い」 老人は、その時初めて子どもの言葉を耳にした。 老人の腕を握る少年の手は、その時確かに震えていた。 その子にどういった事情があるかは、その子にしか分からない。 しかし老人にとっても、これ以上その子の詮索をする気にはなれなかった。 だから再び時が動き出すためには、それからしばらくの静寂が必要となった。
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