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自分の旅立ちを止められたなど、どれほどぶりであろうか。
遠い昔の記憶が、一瞬頭を走った。
『このバスが、我が家のほとりに着くまでに、一体私はどれだけの言葉を考えているであろうか。
だが、どれほど君への愛を詠っても、今の私にはそれを表現できるだけの言葉を持ち合わせていないのだ。
いくら物語を書いたとしても、詩や小説を書いたとしても、これほど私を悩ませるものは無かった。
言葉を探すことが、こんなにも難しいものと感じた時は無かった。
だが同時にこれ程までに、私の魂を懸けられるものもまた無かったのだ。
家路に着いたなら、私は君に告げよう。
来週の朝晴れたなら、またここを旅立つことを。
今度はアッティカの乾いた風の中で、君に似合う花と言葉を探しに行こう。
分かって欲しい。私が旅立つことを。
そして旅立つ朝も、笑っていて欲しい。
何度繰り返される旅の中で、君にささげる詩(うた)を見つけ、未だ示す手段を持ち得ないこの想いを伝えきれた時、それこそが私にとっての旅の終わりであり、最終地点なのだ。』
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