旅の終わり

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 まるで、あの日の夜の様だ。 老人は、今自分が、思い出の中に居る様な感じがした。 あの日のことを忘れた事はない。 もはや今となっては、現実であったのかさえ不安になってくる、あのバスの中の風景。 そこにあったはずの君の姿。 そう、あの日も、ちょうどこんな、闇夜の雨だった。 私はあの時感じた君への想いを言葉にしたくて、あの時の君の姿にばかり心を奪われて。 そうだ、私の人生は、あの日のバスの中で、止まってしまっていた。 あの日の夢の中だけでしか、私は生き続けていなかった。 『・・・私には分からない。今君の心が何処に在るのか ―』 ・・・違う。 『・・・君のその愛が、いつか他の何かにとらわれて、私の前から消えて行ってしまうのではないかと ―』 違う。 私だったのだ。 心を何処かにやってしまったのは。 他の何かに、心を奪われてしまったのは。 私だった。 そう私の心が、君の前から消え去って行ってしまっていたのだ。 それが今になって、全ての旅を終えた、今になって。やっと、分かった。
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