0人が本棚に入れています
本棚に追加
まるで、あの日の夜の様だ。
老人は、今自分が、思い出の中に居る様な感じがした。
あの日のことを忘れた事はない。
もはや今となっては、現実であったのかさえ不安になってくる、あのバスの中の風景。
そこにあったはずの君の姿。
そう、あの日も、ちょうどこんな、闇夜の雨だった。
私はあの時感じた君への想いを言葉にしたくて、あの時の君の姿にばかり心を奪われて。
そうだ、私の人生は、あの日のバスの中で、止まってしまっていた。
あの日の夢の中だけでしか、私は生き続けていなかった。
『・・・私には分からない。今君の心が何処に在るのか ―』
・・・違う。
『・・・君のその愛が、いつか他の何かにとらわれて、私の前から消えて行ってしまうのではないかと ―』
違う。
私だったのだ。
心を何処かにやってしまったのは。
他の何かに、心を奪われてしまったのは。
私だった。
そう私の心が、君の前から消え去って行ってしまっていたのだ。
それが今になって、全ての旅を終えた、今になって。やっと、分かった。
最初のコメントを投稿しよう!