幻に導かれた再会

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吃らないように、しっかり、はっきりと言えたと思う。 「久しぶり、明里」 十四年ぶりに聞いた貴樹君の声は声変わりしていて大人の声になってた。 だけど、あぁ貴樹君の声だな、となんとなく感じた。 「俺は席をはずした方が良いみたいだな」 唐突に夫はそう言い残し、坂を登っていく。 きっと気を遣ったんだろう。 場の空気に敏感な人だから、私達がただの知り合いではないと感じたのかも…… 「貴樹くんと会うのは14年ぶりかな」 「あぁ、そうだね。……明里は凄く綺麗になった」 顔に血がのぼるのを感じる。 きっと耳まで真っ赤になってるかも。 「あ、ありがとう。……貴樹くんも思ってた以上にかっこよくなってたかな」 貴樹君も顔が赤くなる。 大人になっても照れ屋な所は変わってないのかな。 「そうかな?」 「そうだよ」 あの頃と同じ空気。 彼と最後に話したのがつい最近のように感じる位、違和感のない会話。 「ねぇ明里」 何、と短く返す。 「秒速五センチメートルなんだって、桜の落ちるスピード」 脈絡もなく出てきた言葉に息を呑む。 あの時、私が彼に教えた事。 「ふぅん……貴樹くん、そういう事よく知ってるよね」 あの時とは少し違う。 でも同じ会話。 彼は笑ってる。 きっと私も笑っているのだろう。 まるで、得られなかった時間を取り戻すかのように…
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