幻に導かれた再会

12/14
前へ
/16ページ
次へ
「ちゃんと約束、守れてよかった」 「え、約束?」 何の事だろう。 「うん、約束。来年ってわけにはいかなかったけど。それに……あの時は雪だったからね」 彼の言葉に記憶が蘇る。 『来年も一緒に桜、見れるといいね』 私が彼にここでした約束。 「うん、そうだね。……一緒に見れてよかった」 急に強い風が吹く。 地面に落ちた桜がまた舞い上がり、空中でゆらゆらと揺れている。 幻想的でどこか儚い光景。 そんな光景に私は、あの雪の中、桜の木の下の事を思い出した。 きっと私達を包む空間があの時そっくりだったから。 それは彼も同じなんだと思う。 彼の目はどこか、この桜並木でも、私でもない遠くを見ているような気がした。 そして、私達の時間はもう二度と交わることがないと、はっきりと、感じた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加