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「ちゃんと約束、守れてよかった」
「え、約束?」
何の事だろう。
「うん、約束。来年ってわけにはいかなかったけど。それに……あの時は雪だったからね」
彼の言葉に記憶が蘇る。
『来年も一緒に桜、見れるといいね』
私が彼にここでした約束。
「うん、そうだね。……一緒に見れてよかった」
急に強い風が吹く。
地面に落ちた桜がまた舞い上がり、空中でゆらゆらと揺れている。
幻想的でどこか儚い光景。
そんな光景に私は、あの雪の中、桜の木の下の事を思い出した。
きっと私達を包む空間があの時そっくりだったから。
それは彼も同じなんだと思う。
彼の目はどこか、この桜並木でも、私でもない遠くを見ているような気がした。
そして、私達の時間はもう二度と交わることがないと、はっきりと、感じた。
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