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今日は彼の仕事が休みで久しぶりのゆったりとした朝だった。
「何かあったのかい?」
彼はパンにマーガリンを塗りながら唐突に尋ねた。
私がきょとんとしていると、
「あぁ、なんだか幸せそうな顔をしてたからさ。何かあったのかなぁ、と思ったんだ」
顔には出さないようにしてたのに。
やっぱり彼にはわかるのかしら。
それとも隠せていなかったのかな?
「――そうね、久しぶりにあなたとゆっくり食事ができるからかな?」
それなら嬉しいね、と彼は笑って答える。
ゴメンナサイ、それは嘘。
多分頬が緩んでしまったのは昨日見た夢のせい。
ずっと昔の夢。
私も『彼』も、まだ子供だった。
駅の待合室で待っていたのが、まるで昨日の事のように思える。
彼と会えなくなってからはどこか毎日が希薄で、気付けば彼の面影を探していた。
そして、そのたびに私の世界は彼を中心に回っているんだなぁ、と感じた。
それでも世界は確実に流れていて、
私の薬指にある婚約指輪だけが、あの雪の日から14年が経った事を表していた。
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