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朝食を終え、私は洗濯物を干すためにベランダに出る。
外は久しぶりの洗濯物日和だった。
洗濯物を干していると、ふと何かが髪に付いた気がした。
髪をすいてみると、手に付いたのは桜の花びらだった。
きっと暖かな春の風に運ばれて来たんだろう。
懐かしいな、と思いながら花びらをベランダの外に落とす。
桜はひらひらと、ゆっくり地面に降りていく。
「秒速五センチメートルね……」
誰に向かって言うわけでもなく、なんとなく呟く。
『へぇ明里、そういう事良く知ってるよね』
急に聞こえた懐かしい声に慌てて辺りを見回す。
すると、視界の端にいるはずのない小さな彼の後ろ姿を捉えた。
黒いランドセルを上下させながら走っていく。
彼の姿はすぐ見えなくなってしまったけど、
何故か、彼はあの踏み切りに向かって行った、
そんな気がした。
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