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踏み切り前はあの頃とまったく変わっていなかった。
古びた踏み切りも秒速五センチメートルで舞い降りる桜も……
『彼』は踏み切りの向こうで私を見ている。
向こうに行きたいけれど、無情にもカンカンカンと甲高い音と共に遮断機が降りていく。
まるで私達の世界を遮断するかの様に。
『僕の役目はこれで終わり。後は明里しだいだ』
何の事を言ってるかわからない。
『後悔だけはしないで欲しい。これは二度とない奇跡だから……』
彼が喋り終わると同時に、
電車が私達の世界を遮断する。
桜の花びらを舞い上げながら……
彼は電車が過ぎてもそこにいてくれるだろうか?
……きっと彼はいないだろう。
彼も役目はここで終わりと言っていた。
幻はここで消え、
私は日常に戻るのだろう。
……ただ彼の最後の言葉が少し気掛かりだった。
『ここに連れて来たかったんだ』
警報で聞こえるはずのない声が、
何故か、
はっきりと聞こえる。
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