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那岐は夢を見ていた。
一面が水の世界で、那岐は男になっていた。
前世の姿、水流だろう。
水流は穏やかな笑みを浮かべては、水の門を見上げていた。
物凄く高く、物凄く大きい、水の門。
その前で一人、門を見上げながら立っている水流は顔を俯かせた。
頬には一筋の涙が伝っている。
何を思って泣いているのかは判らない。
ただ、胸がギュウッと締め付けられるぐらいの痛みと、深い悲しみが那岐にも伝わってくる。
『これは私の罪。私には精霊神の資格がない。』
涙を流しながら、自分自身を否定する言葉を口にする。
決して許されない罪。
それを抱きながら永い時間の中を生きていくのが苦痛だ。
涙を流し、自分自身を責める。
自分が何故、生を受けたのか。
精霊神としての能力を継承できたのか。
存在する意味。
全てが苦痛であり、生への重荷である。
『転生できるのなら、平凡な人生を歩みたい。そして、心から好きな人と幸せな時間を築きたい。』
切なる願い。
叶うことは、話してあるのだろうか?
涙を流しながら、水流は再び顔を上げて門を見上げた。
大きくて、高くて、頑丈な扉。
その向こうには、人間が住む世界が広がっている。
『人間になりたい。人間としての生を全うしたい。短い生がどれぐらいの価値に値するのかを、自分の身で知りたい。』
願いは切望になる。
決して叶うことのない切望を胸に抱きながら、水流は静かに泣いている。
苦しみも、切なさも、悲しみも、全てが那岐にリンクする。
前世の記憶から、夢になり、そして那岐へと還る。
那岐は涙を流しながら、何故悲しいのかの意味すら理解できずに深い眠りに落ちていた。
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