水流の想い

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 那岐が眠っている頃、水の神殿では紅蓮とウェーブ掛かった水色の長い髪の女性が、互いに向き合った形で話をしていた。 「那岐は?」 「まだ、眠られています。相当、体力を消耗しているようでしたが・・・。」 「ああ。地上界で色々あったからな。精神的に参っていたのだろう。」 「そうですか・・・。」  女性は瞬時に憂いを帯びた表情を浮かべた。  紅蓮は彼女が心から笑う顔を水流が亡くなってから一度も見たことがない。  水の精霊神である水流に仕える水の巫女、水無瀬。  彼女は水流を心から慕っていた。  しかし、彼は彼女の気持ちも知らずに自らの命を断ってしまった。  ショックの余り、水無瀬は毎日を泣き暮らしていた。  同時に、自分が彼の苦しみに気付いていれば、自らの命を断たせてしまったと自分を責め続けている。  四人の精霊神をまとめる神官の珠蓮華は彼女に『自分を責めるな。』というのだが、彼女は尚も自分を責め続けていた。 (那岐が来たことで、彼女の心が救われるといいが・・・。)  紅蓮の心中は複雑だった。  すると水無瀬は穏やかな笑みを浮かべて紅蓮に頭を下げたのである。 「紅蓮様。水流様を精霊界にお連れ致しましたこと、心から感謝をしています。」 「そうかしこまるな。俺は、いや俺たちは水無瀬の笑顔を見たいだけだ。」 「まあ、お上手ですこと。」  幼さを残した顔立ちである水無瀬はくすくすと笑う。  本当に久し振りの、彼女の笑顔である。  水流は生前、彼女を宝物のように扱い大事にしていた。 『私の可愛い妹だ。大事な掛け替えのない存在だ。』  水流が真剣な表情で答えたのを、紅蓮は今でも鮮明に覚えている。  自分を慕う女性。  しかし、彼女を幸せにすることは決して出来ない。  判っていながらも、二人は想い合っている。 (水流。今度こそ、彼女に思っていることを伝えて欲しい。)  深き眠りについている那岐のことを考えながらも、紅蓮の瞳には憂い顔の水無瀬が映っていた。
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