第1章 ホイッスル

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「うわ~、綺麗…」 橋本結衣(ハシモトユイ)は真っ赤に染まった空を見上げ、呟いた。 蒲公英は道端から顔を出し、気持ち良さそうに日光を浴びている。その横を幼き少女が駆けていく。 肌寒い風が髪をなびかせた。その風に身震いしつつも中谷功太(ナカタニコウタ)はポケットに手を無造作に突っ込み、言う。 「うわぁ、綺麗だね」 「もう本当に思ってる!?」 「本当だよ! でも早く帰ってゲームしたいな~」 結衣は若干赤みを帯びた頬をぷくーと膨らませる。 「もう……コウちゃんってばいつもそればっか!」 駆け足で功太を置いていく。 功太は白い吐息を吐きながら、猛然と追いかけていく。 「怒るなよッ!ほら、手出して」 それでも横を向いて歩く結衣の左手を掴み、右手できつく握りしめる。功太は繋がった手を右ポケットに入れ、笑顔を見せた。 「あったかいでしょ?」 「……うん」 春先の温かな日差しは、二人をそっと包んでいる。
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