第1章:出会い

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「何処へだ…?」 少年の声を聞いたジークが、愉快そうに尋ねる。 「…帰ら…い、と」 その声は少年に届かない。 記憶も心も無くした少年は、無くしたはずの言葉をただ一つ持っていた。それは途切れ途切れに、けれど繰り返され続ける。 失ったものを求めるように。 少年はただ繰り返す。『主人』であるジークの存在も忘れて。 そのことに怒る様子も無く、ジークは壊れた少年に尋ね続ける。 「お前は何処へ帰りたいと言うのだ?人界か?家族のもとへ帰りたいのか?」 「帰ら…いと…」 「何処へ?」 「帰ら………」 「人界へか」 「帰らないと…」 「家族のもとへか」 「帰らないと…」 広い廊下に、楽しげなジークの声と虚ろな少年の声が響く。 「帰ら、ないと」 「そうか」 「帰らないと」 少年の言葉を聞く度、ジークの笑みは深くなる。 その目は輝きを増し、不意に冷たい色を浮かべた。
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