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男の声は外見を裏切らず、低く艶やかであった。
その声と男が告げた名前に魅入られるのを感じつつ、ぼんやりと思考を巡らせる。
「僕の名前、は」
…思い出せない。
違和感に顔が歪む。
「それでいい」
考え込む少年に男が告げる。
「え?」
信じられない、と言うように男を見れば男はその口元に笑みを浮かべていた。
「あの…?」
「お前に記憶など必要ない。お前は俺の退屈しのぎだ。主人が誰かだけ分かっていればいい」
男の声に支配される。
少年は未だはっきりとしない思考の中で、逃れられない何かを感じた。
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