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脳裏に過る昨夜のビジョン。
間違いない、この腕は!急いで車から離れた。
その瞬間に轟音、ガラスの割れる音、鉄の転がる音。そう、その存在は赤い手で扉を破壊し車から降りたのだ。
そして品定めするかの様な鋭い目でこちらを見る。そして気付いたのだろう、私の事を、昨夜殺し損ねた女。
今ならはっきりわかる、これは鬼憑きの法術、鬼道の術、人自身に鬼を降ろす大昔に禁呪指定されている。
それを知ってか知らずか……。
それは悦びか怒りか、全てを揺るがすかの様な咆哮、そして人外な俊敏な動きでこちらへと飛び跳ねる鬼。
それに気付けた私は直ぐに来た道に向かって走る。それを鬼も追いかけるがやはり速さも異常、直ぐに追い付かれる。
そして振り上げられるその深紅の右手。悦びにひきつる口元……しかし。
「今だよ!」
その声に反応し空から黒い何かが鬼に降り注ぐ。それは正に黒き雨、鬼の視界全てを黒く染め上げる。
苦しみの声を溢す鬼、その間も距離を離し続け間合いを図る。やがて鬼は自分の視界を覆っていた物を払う。
それは黒い羽、空を見上げれば無数の烏。そう、全身に降り注いだのは烏の羽。
沸き上がるのは怒り、それは野獣の意識、上手くいかない、それは鬼の苛立ちに拍車を掛けた。
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