記憶

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満月のきれいな夜だった。   月明かりに照らされた川沿いの一本道を、まだ幼い響太郎が泣きながら走っている。     「お父さん」     響太郎は精一杯の声で叫んだ。 目の前を走る一台のパトカーに向かって。       そのパトカーには響太郎の父である長谷川弘人が乗っていた。 殺人を犯し、ついさっき捕まったのだ。     「お父さん」     響太郎はもう一度叫んだ。 だけど小さな響太郎の声は弘人には届かなかった。   パトカーに追い付こうと一生懸命走ったが、小さな石につまずいて転んでしまった。 響太郎は起き上がらないままもう一度叫んだ。     「お父さん」     やっと弘人が後ろを振り返り、複雑な気持ちで響太郎の顔を見た。     「響太郎・・・」     2人は見つめ合ったまま、どんどん離れていった。       そして弘人を乗せたパトカーは暗闇の中に消えていった。
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