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「お越し頂き心より感謝しますわ、庵主様・・・いいえ、青嵐さん。月世界へようこそ」
私が斯くして若き導師に謝辞と共に紅茶を献じる事が叶ったのは、彼女の着座より十五分の後。弾ける笑声の花火が途絶えた僅かな間隙を縫ってのことであった。
青嵐尼は、着座するや刹那にして偏物揃いのクルチザンヌ達と打ち解けてみせたのだ。朴訥な代わり一切の媚びを交えぬ極めて晴朗な言動を以て。
もしも彼女が貴顕の家に生を享けていたならば、きっとその爽やかな弁舌と凛然たる佇まいとを以て社交界の華の誉を恣にしたに違いないわね。
・・・それとも、欲望渦巻く魔都上海を駆け抜ける男装の姫君の方がお似合いかしら?
「月世界?
あ、いいえ。どういたしまして。御用命は何時でも大歓迎です。でも、聞きしに勝る荒れ具合ですね綾乃さん。どうしてまたこんな殺風景で不気味な所で法要を?
遠巻きに見たら幽霊じみてましたよ、月明かりに浮かぶ皆の姿。肝試しの積もりなら勘弁して下さいよね」
お化けは大の苦手なんですから、あたし。
と、正真正銘の化生たる私に他意なく言い捨てた青嵐尼は広げた鼻腔いっぱいにふすべ茶の薫りを堪能し、それをがぶり、と一息に呷った。
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