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セリーヌも、ジュスティーヌも、エロイーズも、皆等しく〝奇跡〟の成就を冀っていた。
彼女たちは、然るべき験を欲しているのだ。
月の女神の昇天を証す明けき験を。
・・・しかし、天地は緘黙し、風もまた素知らぬ顔で廃園を過るだけ。
月の巫女らの切なる祈りに報いたのは、無慈悲な迄の静寂であった。
静寂─まるで、大気そのものが刃に変じたかの様な、透徹なる静寂。
宇宙の一切が凍てついたかの様な、峻厳なる静寂。
白金色の月影。草履の裏の幽けき砂の鳴音。烏羽玉の闇。
耳を澄ませても、私達を取り巻く万象は粛然として奇跡の成就を否み続けている。
神までもが死に絶えた、全き死の世界。
これが死せる乙女が焦がれ続けた天上界の景色だとすれば、彼女は、死後の賜物にも孤独を求めていたのかしら?
より純度の高い、澄明な孤独を。
現世の塵ばかりか、神からさえも自由な孤独を。
呼吸をすれば肺が切り裂かれそうなほど、空気が研ぎ澄まされてゆく。
これはきっと、万物の死に絶えた世界に一人佇む孤独。そして、神から見捨てられた孤独。
凡そ人類史に於いては、磔刑台の上の基督の他には誰も辿り着いたことの無い、究竟の孤独。
神秘の不成就、神仏の沈黙、そして、この寂寞の意味を説き明かすべき青嵐尼も紡ぐべき言葉を見失い、悲嘆に暮れるセリーヌ嬢を前に右往左往するばかりだった。
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