歌劇-第二場-

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「貴方が聞き入れてくれるのなら、出資の一割増を約束するわ。 そして、李朝の白磁に文兆の軸・・・貴方ご所望の骨董も望みに任せて」 富の力の行使は、欲望に忠実な巌の心には最も効果的な武器である。  余りにも腥い力量(ヴィルトゥ)の振るい方である事は自覚していたし、その野蛮さは私の貴族的心性を傷付けるものではあったけれども、経国美談も 〝既ニ之ヲ得レバ之ヲ失ハンコトヲ恐ルゝカ故ニ之ヲ得ルハ猛激ナルモ之ヲ守ルハ怯懦ナル者ナリ〟 と述べる様に、今は喪失を恐れる場合ではなく本意を遂げる為に果断を要する時である。 ならばこそ、私は敢えて白い両の掌(たなごころ)を穢す事を選んだのだ。  「・・・暫し、時間をくれ。貴女の熱意にゃ負けた。御老体どもを説き伏せてみよう」 久しい沈黙の後、遂に中川巌は重い口を開く。  「有り難う、感謝しますわ。貴方の御力添えがあれば恐れるものは何も無いわね」 俄かに立ち上がった巌に私は頷きながら手を差出し、契約の成立を確する握手を交わした。
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