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「・・・これはまた唐突な。よもや、戯れでは御座いますまい?」
虚を衝かれて、ほんの一瞬だけ眼をしばたかせた馨ではあったけれども、軽い咳払いの後、整った唇の端を歪め、とうに私の本意を識りながら、私の意志を敢えて微かな毒気を孕んだ問いを投げ掛ける。
「当然じゃない。
戯れか否かは貴方自身よく理解している筈よ。
それじゃあ、些事は万事貴方に任せるわ」
婉然と微笑みながら私はひらひらと手を振る。
「御意に。
ときに、日取りは如何致しましょう?」
「そうね・・・・日取りはあちらにお任せするわ」
私は指を口元に添えしばし思案した後そう命じ、卓上のマイセンの紅茶茶碗を取り上げ、冷めた紅茶を飲み干した。
「それでは、しばし私は失礼致します。早速、献立の構想を練って参りましょう」
いつも通りの恭しい態度で深く一礼すると馨はドアの彼方に去っていった。
「・・・それにしても、どうして気付かなかったのかしら?
賓客を遇してみるのも一興という事に」
私は知らずに紅を引いた唇を綻ばせていた。
無理も無い。
こんなに胸が弾むのは、こんなにも焦れったいような気持ちを味わうのは憂いに沈みがちであった近頃の私には久方ぶりの事であったから。
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