歌劇

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「近代では私の様な〝吸血鬼〟など怪奇の種にすらなりはしないのですものね。科学への信仰は何れ神をも殺めてしまうに違いありませんわ」 私は有坂の近代的視野狭窄を意地悪い心持ちで楽しみつつ、彼に歩み寄り、彼の顎を指先で優しく押し上げる。 「吸血鬼? ・・・ほう、では、私はまんまと狩場へと誘い込まれてしまいましたかな? これは」 有坂は片眉をぴくり、と動かして些か煩わしげに呟く。 「そんな積もりはさらさら有りませんわ。 私にも好みが御座いますもの。 今宵、有坂先生をお招きしたのは只、貴方とお話がしたかったから。 ただそれだけですわ」 「話?」 「そう、お話。 私は、貴方の作品の崇拝者の一人で、長らく貴方とお会いしたいと思っていたのです」 我ながら妖しい笑みを湛え、有坂に向ける。 「ほう、それは光栄です。蛇の様に忌み嫌われるこの老骨めには過ぎた賛辞で」 有坂は漸く私の口から発せられた真実味のある言葉に、俄かに表情を改め、頭を垂れた。 「ご歓談の合間失礼致します。 お食事の準備が整いまして御座います」 自動人形が運んできた二人分の肉料理と赤ワインのボトルとグラスを並べつつ馨は一分の隙もない精緻な作法で客人を遇す。 「我が主は人を食った事ばかり申し上げる為人では御座いますが、主菜は勿論人の血肉などでは御座いませんので、御安心下さいませ。人の肉など、味が劣っていけません・・・では、ごゆるりと」 至って恭しい口調で、人の背筋を凍らせるような戯れ言を涼しい顔で言い残し、馨は深々と一礼と共に部屋を後にした。
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