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夜になり、健太郎が会社を終える時間が過ぎると、樹里は駅前に向かっていた。
樹里は感が良い。
女の感というか、実際大体の女性は嘘に敏感である。
健太郎からのメールは、樹里が違和感を持つに十分な内容だった。
第一に、文字数が多い。
普段、メールでは要点しか送って来ない健太郎が、あれだけの文字数を送って来る事はおかしいのだ。
第二に、具体的過ぎる。
部長の接待だとか、居酒屋だとか、具体的過ぎるのだ。
人間は、必死に嘘をつくと本当を織り交ぜるものだ。
その為、具体的な部分が増える。
第三に、謝っている。
健太郎は決して、すぐに非を認めるタイプではない。
なのにすぐ謝ったのは、何か後ろめたい事があるからだと推測できる。
樹里がここまで理屈くさいのは、父の小説のせいなのかもしれない。
とは言っても、推理小説を書いているわけではない。
小説の内容に対して、理屈で掘り下げるのが得意なのだ。
樹里は、父の背中を見て育ったと言うより、父の文章を読んで育ったと言う方が正しい。
自然と、理屈で掘り下げるのが得意になっていた樹里にとって、健太郎の嘘を見抜く事は容易かった。
駅前に向かっているのは、メールの中に居酒屋とあった部分に着目したからだ。
必死の嘘の中には、本当が織り交ぜてある。
その本当は、たいてい具体的である。
樹里は駅前の居酒屋へ、歩を進めていた。
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