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朝日が薄らと登り、健太郎を照らした。
眠れるはずもなかった。
目の前に置かれた婚約指輪が、1円の価値もない様に見える。
渡す相手がいなくなったのだから。
借りたままで、まだ観ていないレンタルビデオも。
樹里の趣味で買った、アンティークも。
自分では使わない調理器具も。
樹里用のマグカップや歯ブラシも。
全てが意味をなさなくなった。
物の価値なんて、状況で左右される。
しかし、自分はどんな状況であっても情けなく、どうしようもない。
そう思えてならなかった。
仕事にさえ行く気になれず、休みの連絡を入れる。
また、そこが情けない。
失恋程度で、仕事も出来なくなってしまう。
人間なんて、自分で思っているより弱いものだ。
テレビドラマや映画での失恋なんて気にも止めなかったが、いざ自分に襲い掛かると自分だけが1番不幸だと思い、自分だけが1番かわいそうになる。
情けなさすぎる。
何もしないまま夕方になったが、胸の痛みは取れるどころか、実感とともに増していく。
24時間以上何も食べていない事に気が付いたが、胸の痛みのせいで空腹になってもいなかった。
とはいえ、失恋で食事が喉を通らないなんて、情けないパーツを増やすだけだと思い、健太郎は冷蔵庫をあけた。
目の前の棚に、炒飯が用意されている。
きっと樹里が余りご飯で、作っておいてくれたのだろう。
出し切ったはずの涙が、また溢れてきた。
なんて事をしてしまったんだ。
なんていい女を手放してしまったんだ。
後悔の念は、健太郎の目から溢れ続けた。
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