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それから時が経ち、その人魚の節目の祝いに人間どもが海を騒がせた。
花火を上げ、船で海面を揺らす。
神聖な海の精霊…人魚の祭りを騒がせた人間に罰を与えたのか、神は波を立て、嵐を呼んだ。
それが、あの人魚の運命を変えるとは…
「何をしているんだ?」
私は、人間を抱え嵐の海を泳ぐ人魚に問いかけた。
「鯨さん、お願い、私はこの人間を助けたいの手伝って。」
人魚が…海の精霊が陸上の生き物である人間に触れるなど禁忌のはずなのに…
その人魚は必死で、自分よりも大きい人間を支え泳いでいた。
私たち海の生き物に歌や舞で祝福を与えてくれるこの幼い人魚に必死で頼まれ、私は手を貸してしまった。
「人魚よ。その者は空気を吸わねば生きてはいけない。水面を泳ぐのだ。」
「でも、波が高すぎて私では…」
「私が下から支えよう…岸に近くなれば貴方一人でも引っ張っていけるだろう。」
「ありがとう。」
…
……助けたりなどしなければ良かったのだ。
海のおきてに従い、海の神へ魂を連れて行ってしまえばよかったのだ…
そうすれば、あの人魚を…あの歌声を失うことなどなかったのに…
あの人魚は、魔女と取引をし、人間となった。
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